10月に民生文教常任委員会で県外視察研修に行って来ました。大変遅くなりましたがその報告を行います。今回は「子育て、教育」をテーマに視察先を選定し、4か所の自治体等を視察しました。
実は「SUUMO 住み続けたい街ランキング2024福岡県版」の子育て、教育環境充実ランキングで芦屋町が3位にランクインしました!!本当に嬉しいです。今年度の視察研修を参考に、今後も芦屋町の子育てや教育環境を充実させていきたいなぁと思っています。
では、少し長い報告になりますが興味のある方はお読み下さい(^^)v
■10月7日(月)【1日目】
視察先:岡山県高梁市役所
今回の視察研修のテーマは、こども・子育て、少子化対策で初日は岡山県高梁市の「子育て支援」の視察研修を行った。高梁市では、特色のある子育て支援に取り組み、芦屋町で実施されていない事業は次の通りである。
- スクラム会議(要支援児童連携支援)
- ママ・サポート119(出産兆候時の救急搬送・・市内に産科がないため)
- 産後ヘルパー事業
- ファミリーサポートセンター(令和5年度は30件とやや少ない)
- 保育コンセルジュ(令和5年度 相談件数701件 1か月当たり平均6件)
- 子育て応援チケット(対象6事業のうち、1回無料だが利用は伸び悩んでいる)
- 高梁市パパ・ママ・子育て応援事業
- 企業へのべビーファースト運動
以上の事業の中で特に気になったのが、高梁市パパ・ママ・子育て応援事業である。この事業は従業員の子育てや地域における子育てを応援する企業を「高梁市パパ・ママ・子育て応援企業」として市に登録(令和6年度36企業)市が登録証とステッカーを交付し、市のホームページ等で紹介するといった事業である。また、応援企業奨励金事業も合わせて実施しており、下記の取り組みを行った企業に対して1件につき10万円の奨励金を交付している(令和3年度7件、令和4年度3件、令和5年度5件)。
※女性の育児休業は普及してきたため、令和4年度以降は奨励金廃止。
- 産後パパ育休を5日以上取得
- 男性が育児休業を10日以上取得
- 出産・育児等を理由に退職した労働者の再雇用
- ワークライフ・バランスをテーマにした研修会等の開催
- 店舗等の子育て環境の整備(令和6年度新設)
また「こどもまんなか応援サポーター宣言」を県内3番目に宣言し、令和5年6月から「保育所等おむつ支援」や「未就園児おむつ支援」、さらには「子育て応援優先窓口の設置」などを実施している。他には、第3子以降の子育て支援として、令和6年度~第3子以降の多子世帯への子育てに関する事業をパッケージ化(1人当たり約800万円)し、市内外にPRするなど、高梁市の子育て支援が分かりやすく「見える化」されていた。
【考察】高梁市パパ・ママ・子育て応援事業では、市内の企業数に対して登録数が少ないことからもなかなか難しい事業ではないかと感じた。高梁市の人口は芦屋町の約2倍、企業数や一般会計の規模も違い、同様の事業は困難かもしれない。しかし、本町でも地域を巻き込んだ子育て支援は必要である。芦屋町でも子育て支援には力を入れているが、先進地の取り組みを参考に今後子育て支援の強化やPR方法も調査研究が必要だと感じた。
■10月8日(火)【2日目】
視察先①:岡山県奈義町 一社)奈義しごとえん
2日目は令和元年度に合計特殊出生率「2.95」を記録し、全国的にも少子化対策の先進地である岡山県奈義町を視察した。奈義町は面積69.52㎢、人口約5000人で中心部から半径2㎢に人口の8割が定住するコンパクトな町である。芦屋町と同様に過疎地に指定され、公共交通はバスのみ、陸上自衛隊の演習場があるなど、本町と共通する点も多い。よってどのような施策が本町の参考になるのかといった視点で視察を行った。
まずは官民連携で行っているしごとコンビニ事業「奈義しごとえん」では、企業、個人、役場からちょっとした仕事の依頼を受け、高齢者や子育てママなど(しごとコンビニ登録者)に仕事を依頼するといった「ちょっとだけ働きたい人」と「ちょっとだけ手伝ってほしい人」をつなぐ事業を行っている。旧ガソリンスタンドを活用し、年間のべ3000人の利用があるとのことだった。
仕事内容は封かん・発送、PC入力、軽作業、整理・片付け、清掃、墓掃除、農作業、草刈り・剪定などで、特に多いのが草刈り・剪定(草刈り等は以前、社協で行っていたが人手不足を理由に現在はしごとコンビニで受注)、墓掃除とのことであった。しかし、需要と供給のバランスを図るのは難しく、働き手が足りないといった課題を抱えていた。また、高齢者のスマホ教室では子育てママ(高齢者2人に対しママ1人がサポート)が関わっていた。スマホ教室が双方をつなぐ役割となり、高齢者が元気になるだけではなく、高齢者が子育てママの悩みに共感するといった相互作用が生まれていた。
【考察】芦屋町でも同様の課題を抱え、現在は「あしたの会」がこれに近い事業を行っているが奈義しごとえんのような事業展開するためには体制の強化が必要となる。しごとコンビニの代表桑村さんは、元町議で現町長から依頼され代表理事として活動(5年)されていた。この仕組み自体も非常に素晴らしく芦屋町でも導入してはどうかと思う一方で、誰がリーダーシップを取り事業を進めていくのかといった人材発掘・人材育成の課題も感じた。
視察先②:岡山県奈義町役場
奈義町役場では4団体合同での視察となり、多くの自治体が奈義町の施策に注目していることが伺えた。奈義町では平成14年に合併の意思を問う住民投票を行い、合併しないことを決めた。その後、子育て支援に力を入れ始め、平成24年4月に「奈義町子育て応援宣言」を行い、町民に対して子育てへの「安心感」と「心強さ」を約束している。奈義町の合計特殊出生率はテレビでも取り上げられるが、実は平成14年から令和4年までの出生数に大きな変化はない。奈義町の説明では女性の数が減少(分母)したことにより合計特殊出生率が上昇しているとのことであった。また、子ども3人以上の世帯が5割を超えている。奈義町では「これが普通」となっていることも興味深い。奈義町の子育てに対する課題と希望出生数を実現するため、取り組むべき施策として打ち出しているのが以下の通りである。
【課題①子育てや教育にお金がかかりすぎる】対策⇒妊娠・出産・子育てまで切れ目のない経済的支援
本町で実施していない経済的支援は、①在宅育児支援金交付事0~4歳の在宅育児の保護者に毎月15,000円)、②小中学校の教育教材費の無料化、③出産祝い金10万円(本町は2子から10万円)、④高校生への就学支援年額24万円、⑤中学3年生までの子どもを育てるひとり親に年額5万4000円・第2子以降は1人2万7000円加算、⑥おたふくかぜやインフルエンザ予防接種の助成、⑦大学生に町独自の奨学育英金(卒業後に町への定住などで全額免除)となっている。
※子育て・教育支援単独事業費約3億円は、町の一般会計約50億円に占める割5~6%となっている。
【課題②育児の心理的、肉体的に負担、子育ての孤独・孤立】対策⇒出産、子育て等に係るメンタル的支援、男性の家事育児参画の促進、子育てにやさしい地域、安心感の醸成
産後産前のケアは、主にうつの防止を目的に丁寧なケアに取り組んでいた。また、本町では実施していない産後ヘルパーを行っていた。地域と子育て拠点施設なぎチャイルドホームでは、5名のアドバイザー(会計年度任用職員)の他、元子育てママなどの様々なボランティアが活動していた。町民同士が支えあう子育てサポート制度として、一時保育「すまいる」、親同士で協力する「自主保育たけのこ」が学童保育に行っていない児童の受け皿にもなっている他、地域の高齢者が参加する三世代交流会や父親クラブなどのイベントも定期的に開催していた。施設内はとても温かい雰囲気で心地よい場所となっていた。その理由は、広々とした建物や庭は勿論のこと、住民自身が拠点づくりに積極的に関わり、自分たちにとって居心地の良い場所にしようとしているからかもしれない。
【課題③奈義町は子育てしやすい環境なのか】対策⇒奈義町の抱える地域課題(住む場所、働く場所、教育不安等)の解決
教育の推進では、フィリピンから12人のALTを誘致(町独自8000万円)し、こども園から中学校までの各学年に1名常駐していた。ALT はほとんど日本語が話せないため、自ずと英語での会話になるとのことであったが事業費が高額で驚いた。新規事業のため、今後の成果が気になるところである。雇用の創出を目的に企業誘致を行っていた。補助金と土地代は無償とし、平成4年度完成全区画完売、全16社立地約800名が就労しているとのことであったが、720名が町外者、80名はベトナム人となっており、なかなか雇用の創設は難しい結果となっていた。(しごとコンビニ事業については上記で説明)
住環境の整備は、町営賃貸住宅(戸建て・集合住宅)全81戸を整備しているが常に満室となっているため、町で「民間賃貸住宅の建設助成」を行っている。また、分譲整備(87区画)も行い、分譲率100%となっている(分譲地紹介報奨制度30万円、新築住宅普及促進事業補助金上限100万円、民間分譲地整備補助上限額1区画当たり100万円)。
若い世帯向けの住宅が不足する一方で町内の空家は増加傾向となっている。流動化、活用、除去促進等が求められ、空家対策・新築・リフォーム促進を進めている。令和5年度の新規事業の空家利活用事業は、所有者から町が長期契約(12年)で空家を借り上げ、町が改修工事を行った上で入居希望者に賃貸する事業を実施していた。奈義町からは少子化対策では住環境の整備が一番効果があるとの説明があった。
【その他】2018年4月に「多世代共生型ナギフトカード」といったICチップ入りの電子カードを全町民に発行し、このカードに行政ポイントや買い物ポイントを貯め、貯まったポイントは1ポイント1円で利用できるようにしている。自分のお金をチャージすることもでき、電子マネーとしても使える。地域プレミアム商品券や2021年4月からのコロナの給付金も全てこのカードを通じて給付し、町内の加盟店で利用できるようにしている。人口が減少し、町内に買い物するお店もなくなればさらに人口減少が進む。人口5000人の奈義町ではスーパーが3か所もあるとのことで、ちょっとして買い物なら若い人も町内で買い物するとのこと。ナギフトカードは自分たちで自分たちの町を守るための仕組みとなっていた。
【考察】奈義町の少子化対策は、子育て、教育、住環境、仕事など幅広に行われていたが、もしかしたら本町でも奈義町に近い支援は可能かもしれない。奈義町の女性が3人以上出産する理由は①コンセンサス、②機運、③それが奈義町の普通だと説明された。奈義町は人口減少に危機感を持ち、住民との合意で子育て支援に力を入れ、少子化対策に取り組んできた。テレビや新聞などでもその取り組みは紹介され、住民の機運は高まり、町の本気度が住民に伝わっているのだと感じた。その点では、「まだまだ大丈夫」と感じている本町の本気度が不足しているのかもしれない。これからも少子化対策に対する本町の課題を明確にし、奈義町と何が違うのかさらに調査研究していきたい。
■10月9日(水)【3日目】
視察先:兵庫県小野市役所
小野市では小中一貫教育をテーマに「夢と希望の教育」の視察研修を行った。小野市では児童生徒の学力低下を課題と捉え、平成17年10月脳科学が専門の東北大学教授川島隆太氏が小野市教育行政顧問に就任し、脳科学に基づく教育を開始した。重点施策は次の通りである。
重点施策Ⅰおの検定
重点施策Ⅱ小中一貫教育(16か年教育)
重点施策Ⅲ小野市型学力向上(教育環境の整備)
おの検定とは、基礎学力を定着させ、豊かな心を育む学習システムのことで、小野市独自の計算や漢字ドリルで基礎学力の定着や主体的な学び、家庭学習の習慣化に取り組む他、縄跳びや運動で基礎体力を向上させ、継続した運動習慣の確立にも取り組んでいた。全て市教育委員会が採点する「おの検定」では、認定シールやかんばり賞の発行、まちがいやすい問題をピックアップする「まちがいランキング」といったドリルの活用で全国学力調査の結果も向上していた。
小中一貫教育(16か年教育)では、連続性のある学び(学習指導・生徒指導)を行うため、通常は中学1年、2年生、3年生となる学年を7年生、8年生、9年生と位置づけているのが特徴である。小学校高学年の教科担任制や特に10歳が飛躍の年齢として位置づけ教育の推進を図り、1小学校、1中学校の河合中学校区では、6年になると中学校の校舎に登校し、小学校では5年生が最上級生となって活動するといった特徴的な体制となっていた。また、乳幼児期から中学3年生までの16か年教育を3つのステージに分け、そのステージに応じて「早寝・早起き」「バランスの良い食事」「親子のふれあい(コミュニケーション)」といった家庭教育の支援を行っていた。特に最近では長時間のスマホ使用を問題視し、学力低下など子どもの脳に危険であるとの調査結果から、乳幼児や低学年では保護者への働きかけ(パパママサロン教室など)、上学年では本人に対して働きかけを行っていた。
教育環境の整備では学校と教育委員会の新しい関係づくりに取り組んでいた。具体的には、教育委員会の定例訪問や研究指定の廃止、卒業式の告示廃止など、前例踏襲を改めるなどの改革を行っていた(学校と教育委員会は対等であるべきとの教育長からの提案)。新たに独自の研究活動のための自由裁量の予算を設定するなどの取り組みも行われていた。定例訪問を廃止してもオープンスクールなどで十分学校の様子はわかり、自由裁量の予算で研究活動も行われているとのことであった。
【考察】小野市は、顧問の川島先生からのアドバイスや講演会で実際に脳の血流を調べるなど、脳科学の知見を根拠に学校行政を進めていた。また、自分で読み書きすることを重視し、全国的に導入されているタブレットは学力向上に大きな効果はないとの見解を示されたことは興味深かった。小野市の学校行政は教育委員会が熱心に進め、学力やこころの教育にも寄与していることは評価できた。特に乳幼児期からの関わりや「まちがいランキング」、教育委員会と学校との新しい関係づくりは本町でも参考にできるのではないかと感じた。